有料老人ホーム入所に必要な資金はどのくらい?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。相談者は、5年後にリタイア、その後は投資で資産を増やすことを計画中の55歳の会社員男性。
加入している保険と、有料老人ホームの入所についていろいろと思案中。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。
相談者
ライフ・マネープランさん(仮名)
男性/会社員/55歳
中部/持ち家・一戸建て
家族構成
父(80代)、母(70代)
相談内容
数年前に転職(正社員から契約社員へ)、退職金350万円あり。現在18万円の月給で生活(賞与・退職金なし)両親と3人で生活しています(15年前に自宅を建替、自分に名義変更)。両親の資産は、彼らの終活を迎えるだけの額あり。
・質問1
深野先生のアドバイス記事を読んでいると、ある程度資産があれば保険の必要性はあまり感じられないように思いますが、私の場合はいかがでしょうか?
・質問2
個人年金保険(下記の【5】)について、5年前に加入したので利率があまりよくなく、年金額を減額(後納分を支払わず払済保険を希望したが、それができない保険だったため)しました。
結果、今月から月払保険料が減ったのですが、その分を運用などに回した方がいいでしょうか? ちなみに、毎月の保険料6万円程度(さらにボーナス月は加算)を2万8700円に減額し、年金額65万円も35万円(15年間)になります。
・質問3
独り身ですので、介護状態になったら有料老人ホームに入り、成年後見人制度や看取りサービスなどを利用して自分の最期を看取ってもらえるようにしたい。そのためには最低どれくらいの資産が必要になりますか?
将来の展望として月々5万円の積立をして一定額貯まったら、利率のいい金融商品に移行していくか、投資信託か株に投資していくか判断する。
できれば60歳でリタイアして(資産形成状況によって65歳まで伸ばす)株式投資で資産形成ができるようにしたい(株式投資は勉強中です)。大きな目標として「億り人」になることです。
家計収支データ
ライフ・マネープランさんの家計収支データは図表のとおりです。
家計収支データ補足
(1)住宅について
住宅ローンはなし。固定資産税は年間5万円程度。
(2)加入保険について
【1】本人/終身保険(死亡200万円、65歳払い込み終了)=毎月の保険料6500円
【2】本人/医療保険(終身保障、70歳払い込み終了、入院5000円、先進医療特約、抗がん剤治療特約、がん診断一時金50万円)=毎月の保険料8600円
【3】本人/がん保険(終身保障終身払い、診断一時金50万円、入院1万円、通院特約)=毎月の保険料4200円
【4】本人/個人年金保険(60歳から10年間確定、年金120万円)=毎月の保険料1万5600円、ボーナス月(7・12月)4万7000円
【5】本人/個人年金保険(60歳払込み終了、65歳から15年間確定、年金35万円 )=毎月の保険料2万8700円
【6】本人/米ドル建て終身保険(61歳払込い込み終了、死亡3万米ドル、積立利率年3%保証)=保険料1798米ドル(年払い)
(3)年金について
公的年金の受取見込額127万562円(ねんきん定期便)
(4)お勤めについて
今の職場で、最低60歳まで働くつもりです。その後は資産の状況でリタイアするか、もう少し体力的にラクな勤務先で働く予定。
(5)教育費2万円について
うち、1万7400円は、株式投資の通信教育費用。
(6)現時点で考えている有料老人ホームについて
その時点の資産状況にもよるが、贅沢な施設よりも、経営体質を重視したいと考えている。できれば、あまり予算をかけずに入れる所が希望。
FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1:まとまった資産があれば保険の必要性は低い
アドバイス2:定年後の運用生活を体験してから判断する
アドバイス3:今後の投資は「つみたてNISA」を活用
アドバイス1:まとまった資産があれば保険の必要性は低い
まず質問1からお答えします。
「ある程度資産があると、保険の必要性があまり感じられない」という考えに、ライフ・マネープランさんが該当するかといえば、そうだと考えます。
とくに医療保障については、実際に医療費が発生すれば貯蓄からという発想です。現時点で資産があれば、いつまとまった治療費が発生しても対応できます。その意味で、保険に頼る必要性は低いということです。
また、浮いた保険料を貯蓄すれば、それも医療費に回せます。実際に【2】【3】について、今後支払う保険料は、90歳まで生きるとして、総額270万円ほど。加入時期は不明ですが、これまで支払った保険料も加算すれば300万円前後になるはず。
大半の治療は健康保険適用の範囲であり、入院が短期化傾向にあります。一般的に考えて、この保険料を超える自己負担の医療費がかかる可能性は高くはありません。
ましてや、医療費がそこまでかからなければ、その分貯蓄として残ります。この方がお金の使い方としては「合理的」ということになります。
死亡保障については、まとまった資金を遺す家族は現時点ではいませんので、さらに必要性が低いことになります。また、貯蓄性を考慮して保険に加入するケースもあります。【1】【6】はそれに該当するでしょう。
ただし、【1】の貯蓄性はさほど高くはありません。【6】についても予定利率は高くても、為替差益でもっと増えるかもしれませんが、為替差損が発生する可能性も当然あります。しかも、両替手数料など、余分なコストも発生します。
【1】は払済保険に、【6】も投資と割り切るなら別ですが、貯蓄と考えるなら払済保険にした方が賢明です。
残る個人年金保険ですが、【4】【5】とも老後資金づくりが目的ですし、確実に増えるわけですから、これは継続でいいでしょう。
アドバイス2:定年後の運用生活を体験してから判断する
次に、【5】の個人年金保険の年金額を減額し、結果、浮いた保険料は投資に回すべきかというご質問ですが、結論からいえば、貯蓄に回した方がいいでしょう。
これまでに支払った保険料との差額は3万4000円弱。年間で40万円にもなります。60歳まで支払う予定でしたから、5年間で200万円。確実に貯蓄を増やしたいところです。
その理由ですが、ライフ・マネープランさんが60歳でリタイアして、以降は運用で資産は増やし、ゆくゆくは「億り人」になりたいという希望と関係します。
もちろん、夢や希望を持つことは自由ですし、それについては個人的には否定するつもりはありません。ただし億り人はもとより、運用だけで生活できるだけの収益を数十年、継続的に得ることでさえ、かなりハードルは高いといわざるを得ません。
おそらく専門の講習も受けているとのことですから、定年後から始める運用手法は中長期ではなく、デイトレードかそれに近い短期売買がメインになるかと思われます。
しかし、それで誰でも儲かる方法は存在しません。日々リスクとの戦いです。思い切った損切りができるだけの決断力も欠かせません。私の知る限り、それで成功している人はほんの一握りです。
したがって、FPという立場でいえば、億り人を目指すより、今後は貯蓄にシフトすべきです。現状から考えて、定年後も金融資産の7~8割を運用に充てることが予想されますが、1割か多くて2割程度に抑えてください。
ただし、人にいわれても納得できない部分もあるでしょう。そこで自身で体験して答えを出してはどうでしょう。
例えば、有給などを使って1週間、本気(自己資金300万円程度)でデイトレードをしてみる。いわば「仮想・定年後の運用生活」です。保証金100万円くらいなら、信用取引を含めてもいいと思います。
時期をずらして、それを計3回してみて、少なくとも2回で利益が出て、トータルでも20%以上利益が出れば、才覚があるかもしれません。逆に、それが達成できなければ、地道に貯蓄の道を選択すべきです。
アドバイス3:今後の投資は「つみたてNISA」を活用
最後のご質問ですが、有料老人ホームの入所費用はかなり幅があります。
民間の場合で、一時金が発生しない施設もあれば数千万円、介護付きのタイプであれば億を超える施設もあります。他に、ランニングコストとして月額15万~35万円といったところでしょうか。
ただし、漠然とした額を知るよりも、本当に入所を希望するなら、具体的に自分が入所したいと思える施設を選び、必要な資金を用意する。それが不足しそうなら、そのために今から資金づくりをする。その方が、より現実的です。
あるいは、入所時期が現実に近くなった時点で、手持ちの資金で可能な施設に入所する。入所のプロセスとしては、そのどちらかになるかと思います。
そう考えると「億り人」になれば、希望する施設に入所できますから、一見、2つの目的が合致するようにも思えます。しかし、運用はリスクをともなうため、老後資金そのものを取り崩す可能性もあります。
したがって、この両者の方向性はズレていることになります。もし有料老人ホームを優先するなら、先にも触れましたが、今から貯蓄にシフトすべきです。
55歳は、投資商品の比率を下げていく年齢にさしかかっています。株式は利益確定していく。
また、現在多くの投資信託を保有されていますが、これも一度整理・売却する。そして、今後の投資については「つみたてNISA」を活用して、税制メリットを受ける。それが結果的に、リスクを抑えた中長期投資につながります。
相談者「ライフ・マネープラン」さんから寄せられた感想
生命保険・医療保険については、ある程度資産があれば、保険に加入していなくても対応ができることがわかり、少しずつ払込済保険にして、浮いた保険料を貯蓄の方に回していきたいと思います。
投資・運用の資金の割合が年齢に対して、多いとの指摘がありましたが、現役の間(定年まで)は、投資・運用の資金の割合がある程度あってもいいのかなぁと思っていました。
投資・運用については勉強という面もあるので、これ以上割合が増えないようにしつつ、リスクの低いものに変えていき、定年までは徐々に割合を減らしていきたいと思います。
教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。
取材・文:清水 京武
文:あるじゃん 編集部