燃料高騰の影響はゼロ円 太陽光発電の地産地消を目指す街 蓄電池、EV、給湯器も活用

2022年11月26日 07時06分

屋根に太陽光パネルが設置された住宅街=本社ヘリ「あさづる」から、内山田正夫撮影

 春から続く電気料金の値上がりの影響を受けていない「街」が、さいたま市緑区にある。今春から入居が始まった太陽光発電の地産地消を追求するモデル地区だ。どんな生活なのか。未来への挑戦の現場を訪ねた。

◆発電の予測を基にして

 1〜6歳の子ども3人が保育園に行った後、静けさに包まれたダイニング。会社員の大橋健人さん(35)はいつも朝の食器洗いをこなす前に人工知能(AI)に声をかける。

自宅前で子どもをあやす大橋健人さん(右)と妻の美由樹さん=いずれもさいたま市緑区で

 「アレクサ、Looopループタブレット開いて」
 テーブルの上のタブレットの画面がぱっと変わり、青や紺色の色分けが表れる。その日の太陽光発電量の予測を基に決められた、時間ごとの電気料金のグラフだ。5円刻みで3段階。最も安い1キロワット時当たり20円は水色だ。「食洗機をどのタイミングでスタートしようかなって考えるときとかに見ますね」

太陽光発電の予測に応じて時間ごとに変わる電気料金を表示するタブレット

◆ガス代も節約

 太陽光発電パネルは51戸並ぶ一戸建て住宅全てに載っている。電気は、できる量も時間も天候で決まる。だから、街の配電を担う新電力「Looop」は、時間帯で変わる料金によって、できるだけ発電の多い昼間に家電を使ってもらえるように促している。
 余った電気は、夜などに各家庭が使えるよう、同社で街の1区画にあるチャージエリアの蓄電池と電気自動車(EV)2台にためる。昼のうちに電気で家々の給湯器のお湯を沸かし、ガスの消費も節約できる。
 大橋さん宅はIHキッチンで、子ども服の夜の洗濯乾燥も欠かせず電気代は月に1万5000円を超える。だが、世間の電気代高騰を招いた燃料費等調整額はゼロ円。電気を街でつくっているのに加え、外から買うのも再生可能エネルギーのため、燃料代の価格変動に影響を受けないためだ。ガス代は1000円余り。マンションから3月に引っ越して家が広くなり、妻の美由樹さん(36)は光熱費の増加を予想していたが、今のところ「トータルはそんなに変わらない」という。

電気自動車や蓄電池が置かれ、街区の電気を集める「チャージエリア」

◆バイデン政権の閣僚も視察

 街の開発は、さいたま市の「スマートシティさいたまモデル」の一環だ。市は2009年からEV普及に努め、11年の東日本大震災による計画停電も経験したことから、二酸化炭素(CO2)排出が少なく、災害に強い街を目指した。
 少ない冷暖房で快適な室温を保てる高断熱高気密の家造りの実績がある地元の高砂建設など住宅メーカー3社が参画。16年度に整備した第1期の街区から家の省エネ性能の高さや太陽光発電、電線地中化などを特長にしてきた。
 都心直結の埼玉高速鉄道浦和美園駅から徒歩10分弱で、人気は上昇。太陽光発電の地産地消に初めて取り組んだ今回の第3期は51棟を5000万〜6000万円台で販売して完売。高砂建設の担当者は、住民からの口コミの効果も大きかったとし、「お客様がお客様を呼んだ」と振り返る。9月には米バイデン政権の環境保護庁長官が視察するなど注目される。

◆課題も踏まえ、続く模索

ただ、電気の需要を発電状況に合わせきれず、昼に発電を抑制したことがあった。暖房需要と発電のタイミングがずれる冬の経験は、これから。「仕入れ値ゼロ」の太陽光発電で多くをまかないたいが、足りない分は街の外から買うことになる。
 Looopが管理する発電や蓄電などの設備は、導入に環境省の補助金1億円超を充てた。今後の普及には、補助金なしで維持管理費分もまかなう収入確保策も必要になる。
 同社エネルギーイノベーション課の課長代理黒田雅行さん(36)は「課題も良いことも見えてきた」。電気の地産地消の街を増やしていくための道筋を模索している。

<スマートシティ> 人工知能などの先端技術を活用して社会課題の解決を目指す持続可能な都市や地域。国土交通省や内閣府などが補助事業で推進する。政府が運営し、自治体と企業の連携の仲介もする官民連携プラットフォームには187の地方公共団体が参加。さいたま市は交通渋滞の解消を目指す事業などで支援を受ける。

◆今月の鍵

 東京新聞では国連の持続可能な開発目標(SDGs)を鍵にして、さまざまな課題を考えています。今月の鍵はSDGsの「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「目標11 住み続けられるまちづくりを」。再生可能エネルギーの発電設備と小さな配電網が各地に分散し、自立する。そんな未来の実現にはまだハードルがあります。課題がはっきりすれば次につながる。モデル地区の経験が広く生かされることを期待します。
文・福岡範行

福岡範行記者

福岡範行(ふくおか・のりゆき)=デジタル編集部

 1983年、愛知県生まれ。2006年、中日新聞社に入社。2017年からの東京本社社会部時代に取材した池袋乗用車暴走事故や気候変動の連載「地球異変」がライフワークに。2児の父。基本は人見知り。電話は小学生のころから苦手。(2021年12月17日更新)▶▶福岡範行記者の記事一覧



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